ちょっと場所や気分を変えると、同じ作業でも、ビックリするくらいに負担が軽く、快適になることがあります。例えば、ジョギングをする際、同じコースを周回するのと、風景が変わるコースでは同じ距離、時間でも疲労度が全く異なります。私は、数年前から、アスファルト上を走ると膝に痛みを覚えるようになり、土の上を走るため現在はやむを得ず近くの公園内を走っているのですが、これが実にこじんまりとしたコースで、一周するのに2分もかかりません。ですから、単調なコースを何十週もすることになり、狭いケージの中で車輪を回すハムスターのような気分になってきます。それでも、一週間に一回程度は、外のコースを走ることにしており、この際は、移り変わる風景の中で走れるので、実に気分爽快、気持の乗り方が違います。
ややもすると単調になりがちな英語学習・トレーニングですが、このようなちょっとした変化、演出がトレーニングの単調さを著しく軽減してくれます。いくつかの方法を提案してみます。
1.室内で―じっとしないで動き回る
大きな声を出す音読系のトレーニングでは、行う場所はどうしても自室になります。ただ、私はじっとしていると閉塞感を感じるタチなので、はじめ座っていたかと思うと、やおら立ち上がり、室内を歩き回りながら行っています。リピーティングなどでテープをかけている時は、1セクション終わって巻き戻さなければいけなくなると、また元のポジションに戻ってくるという具合です。端から見れば、ノイローゼの熊のように落ち着きがないかもしれませんが、これが私にとっては最善の方法なのです。もとより、一人でやるトレーニング、人目を気にする必要はありません。 外国語の学習はお行儀良く行わなければならないというルールなどありません。自分がリラックスできる姿勢・スタイルを選ぶといいでしょう。
2.お気に入りの場所に出かける
外に教材を持って出ることもお薦めです。私の場合は海が近いこともあり、よく車で海岸に行き、短文暗唱=瞬間英作文・フランス語作文などを行います。海原を眺め、潮騒を耳にしながらぶつぶつと短文を口にするのですが、「お勉強」の窮屈さは全然感じません。それでも、ちょっと飽きると、テキストを放り出して車の外に出て、釣りや投網をしている人の釣果を覗いたり、砂浜を散策して気分転換、また車に戻りトレーニング再開、と実に気ままにやっています。 近くに海は無いし、車にも乗らないという人でも、快適な場所はいくらでも見つかるでしょう。徒歩か自転車で近所の公園に出かけてみてはいかがでしょうか?ベンチに腰掛け、花々や木々に囲まれながらテキストを開いてみるといいでしょう。
3.通勤・通学の電車の中で
定番の方法ですが、車内学習は外国語学習の機械的部分を消化するには格好の方法です。電車内はできることが少ないので、他の場所なら避けられないもっと楽しい活動の誘惑がないからです。私自身、バイト先への電車の往復の時間を利用し、数ヶ月で数千語のボキャビルをしたり、短文暗唱=瞬間英作文を行い大きな成果を上げました。ボキャビルを済ませた後は、ペーペーバックや英文雑誌の多読にも車内空間を大いに活用させてもらいました。振り返れば、私の英語力の相当部分は電車内で形成されたと言えます。 私の教室でも、かなりの時間を通勤・通学の車内で過ごす人がいますが、モチベーションの高い人は、この時間を上手に活用するので、学習時間の不足に悩むことは有りません。あるビジネスマンは、車内学習ができる週日はしっかりトレーニングできるが、週末は家庭サービスをしなければならないので、むしろトレーニング量が落ちてしまうとこぼしています。まあ、まずは家庭円満がなによりですから、仕方ないですね。 最近では、車内で携帯メールに没頭している方も多いですが、英語上達を本当に望み、通勤・通学で、長時間電車内で過ごす人にとって、この時間を有効に使うか否かはトレーニングの成果に大きな影響を及ぼします。
4.車の運転中
一日に一定の時間車の運転をする人は、この時間も英語学習に使わない手はありません。私は以前横浜に住んでいた頃は、車を持つ必要も、その気もありませんでした。しかし、房総の田舎に移ってからは環境が一変しました。とにかく車がないと生活できないのです。必要に迫られて、マイカー生活を始めましたが、これはこれで機動性があり快適です。首都圏の渋滞とは無縁ですし。今では年間2万キロ以上走っています。こうなると、この時間を無駄にしてしまうのは惜しいので、動くトレーニングルームとして使っています。 車の中で行うのは、リスニング、リピーティング、シャドーイングです。私の生徒の多くもマイカー内トレーニングを実践しています。あるビジネスマンは私が課すリピーティングトレーニングのかなりの部分を運転中に行っています。その方はマイカー通勤の往復に必ず渋滞区間があり、その時間にリピーティングトレーニングするそうで、英語力がつく上にいらいらすることもなくなり一挙両得だそうです。 マイカー内トレーニングの大原則は、安全運転です。車が滑らかに走っている時は、運転に集中。英語トレーニングはラジオ番組や音楽のようにせいぜい聞き流し程度にとどめます。信号待ちや、渋滞の時にリスニングやリピーティングなどを行うといいでしょう。なによりも大切なのは、歩行者の保護、そして自分の安全です。この程度のトレーニングでも、長い期間のうちに大きな効果を上げるものです。
5.ウォーキングしながら
私がウォーキングと外国語学習の相性が抜群だということに気付いたのは、ごく最近のことです。私は有酸素運動としては、ウォーキングより単位時間内の消費カロリーが多いジョギング派です。しかし、去年(2004年)体調を崩し、まったく運動ができない時期があり、体調が良くなった年明け位からチューンアップのためにウォーキングを始めました。と、言っても、負荷の掛かるようなペースではないので、散歩といった方が良いかもしれません。始めてみるとなかなか快適でしたが、一人で一時間ばかりを歩くのは多少退屈で、またこの1時間という時間が、歩くためだけにはもったいなくも感じました。そこで、ウォーキング中にウォークマンを使いリピーティングをすることにしたのですが、これが大当たりでした。
リピーティングを行うのは、フランス語だったり英語だったり、その日の気分です。景色を眺めつつ快適に散歩しながらのリピーティングには、トレーニングの堅苦しさは全く有りません。また、リピーティングという作業が、一人で歩く退屈を埋めてくれます。つまり、リピーティング、ウォーキングそれぞれのわずかなマイナス面が相互の作用で完全に埋められて言うこと無しなのです。
私がウォーキングをするのは、川岸に沿って流れを辿り、川が九十九里の海に注ぐ河口で折り返すという絶好のコースです。きらきら輝くせせらぎを眺めながら歩を進めていると、どこからともなく白鷺が現われ、優美な舞いを披露してくれます。小さな水鳥達の可憐できびきびした動きも見ていて飽きません。もちろん、その間もしっかりと行っているリピーティングは、頭が完全にリラックスしているので、とても質の良い状態で行えます。やがて、海岸に着くと、白波に目をやりながら潮風を吸い込んで、折り返しです。全行程実に快適で幸福感で満たされ、最近になるまでこの方法を行ってこなかったことが悔やまれるほどです。ただ、最近は体調がすっかり良くなり、ジョギングとウェートトレーニングを再開したため、ウォーキングのための時間を毎日捻出するのは難しくなったのが悩みです。
ウォーキングしながらのリピーティングはテキストを持たずに行うので(そのほうが快適でしょう?)、初級から中級の人が行うには、すでに音読パッケージを完成しているか、ある程度トレーニングの進んだ素材を使うと良いでしょう。
英語を身につけるためには、当然ながらある程度の努力は必要です。でも、それを求道僧よろしくしかめ面で行う必要はありません。どうせやらなきゃならないなら、なるべく楽しく快適に。私が紹介した方法はほんの一例です。わずかばかりの工夫と遊び心で、あなたに適したスタイル、方法がいくらでも見つかるでしょう。