トレーニングの進め方

目的・タイプ別ケース

ここでは、さまざまな学習目的、必要レベルに合わせた、一般的な学習プランを紹介します。

突然英語が必要になった ▶ まずはTOEIC600レベル

英語に特別の思い入れはなく、自分と英語は無縁のものと思っていたのに、自分以外の外からの要請で、ある日突然英語を身につけることを強いられることがあります。社会人の方なら、仕事で突然英語を使わざるを得なくなった、予想していなかった海外赴任の辞令が降りたなど、学生の方ならば、就職のために一定以上TOEICのスコアを取ることを決めた、などという場合です。

こうした場合、具体的な目標は、まずはTOEIC600レベルとなるでしょう。これは、英語を道具として使いことのできるスタート地点です。もちろん、それほどすらすらと話すことはできないでしょう。また、早口で話されると聴き取りに苦労するかもしれません。ただ、ゆっくりとした口調でも、センテンスで表現することができ始めます。言われたことがわからなければ、相手に聞き直したり、ゆっくり話すことを英語で要求できます。自分に取って英語は外国語であることを相手に理解させ、自分のペースでコミュニケーションが取れます。

このレベルに達すると「使って上達する」ことが可能となるので、英語を使う環境にいる人などは、この後テンポ良く力を伸ばすことができます。また、今現在要求される英語力がそれほど高くなく、自分でも深く英語を学習していく気がなくても、必要な時に力を伸ばしていける基礎体力がついています。この先に行く必要があってもなくても、良い状態で待機できるのです。

このレベルに達するためのプランを二つのケースに分けて紹介いたします。

ケース1学生時代英語が得意だった方のためのプラン

1.英語体質作りに専念

英語が得意で大学受験時に偏差値が60を超え、安定した読解力と文法力を備えているというケース。このグループの人は、知識のストックは充分過ぎる位です。まずは立派な知識を使える体質作りに専念してください。くれぐれも「お勉強」を延々と続けないように。TOEICなどの目標スコアとの差を、問題集を黙ってカリカリ解くことで埋めようとしないで下さい。目標スコアは蜃気楼のようになかなか近づかないし、英語を使う能力は全くつきません。

中学2年3年レベルのテキストの音読パッケージでトレーニングを始めましょう。ピラミッド方式で100回前後の回数を行うことがお薦めですが、体質変化が早く、テキストを見ないリピーティングが浅いサイクルで簡単にできるようになってしまう方は回数を減らしてもいいでしょう。英語を話す能力をつけるために、並行して短文暗唱=瞬間英作文も行って下さい。中学英語レベルの文型集・例文集を使うといいでしょう。

私の指導経験では、早い人は、中学2、3年のテキスト一冊ずつの音読パッケージ、中学英語文型集を1セット上げただけで、TOEIC400前後から600越えを果たしてしまいます。この過程を終えて、まだ期した結果が得られない人は、焦らずに教材のおかわりをして下さい。音読パッケージは別の出版社の中学2、3年のテキストか同程度のテキストを使います。その場合も先行のテキストで初期回路ができつつありますから、早期からテキストを見ないリピーティングができるようになっているでしょう。それならば、サイクル数、反復回数はずっと減らして構いません。テキストの消化に要する期間は大幅に短縮されます。短文暗唱=瞬間英作文も淡々と中学レベルの文型集で行います。気分を変えて中学英語レベルの文型を軸に少しレベル高いバラエティーに富んだ表現を含んだ例文集と使うのもお薦めです。いずれにしても、大学受験レベルの知識がきちんと頭に入っている人がTOEIC600レベルに達するのは単に時間の問題です。駅までの道のりを歩けば、駅に到着するのと同じく確実なことです。

2.実践練習

基本を軽んじず、1. のプロセスを踏むことで順調に英語体質ができつつあるでしょう。そろそろ実践練習の時期です。英語でコミュニケーションを取ることが要求される人はここで会話の練習に乗り出しましょう。実を言えば、基礎知識のしっかりしているこのグループの方は、いきなり会話練習をしても成果を上げることができます。ただ、上達の速度はかなり個人差があります。1. のプロセスをしっかり踏んでいれば、かなりスムーズに会話も上達します。また、基本文型を満遍なくをきちんとやることで、使用する文型や、言い回しが偏ってしまうことも防げます。

会話能力を効率的に向上させるためには、一週間に一度程度でなく、最低2回、できれば3回、1セッションの時間も多くの英会話スクールで見られるような40~50分程度ではなく、90~120分みっちり話したいものです。基礎力を実際の会話能力として開花させるためには、短期間に稠密な会話トレーニングをすべきです。これくらいのトレーニングを半年程度続けると、持っているストックに相応しい会話能力がつきます。費用もそれなりに掛かりますが、お金と労力を惜しみ細々としたトレーニングを行うと、思ったように効果をあげられず、かえって時間と費用も無駄にしてしまう恐れがあります。

1. 2. のステップが終了した時点で、目標とした英語力は手に入れているはずです。確実にTOEICなどの目標スコアをクリアしたい方は、①②の終了時点か、並行してテスト対策的な勉強をするといいでしょう。しかしそれはあくまでも補強的なものですから、学習の主軸にしないで下さい。健康な肉体はサプリメントだけで維持できず、しっかりとした食事が基本であるのと同じです。

基礎知識の豊富なこのグループの人は、目標のレベルに達しても大分余力を残しています。TOEICのスコアも、600点はおろか、600台後半から700台後半に達してしまう人もいます。そうすると、自分の埋もれていた英語力をさらに伸ばすことに面白みを感じてしまうかもしれません。また、目標にしていたレベルが到達してみるとほんの入り口であることを実感し、新たに挑戦心が湧いてくるかもしれません。これを機会に本格的なトレーニングを始めるのも一興ではないでしょうか?

ケース2学生時代英語が苦手だった人

1.勉強のやり直し

学生時代英語は苦手、受験でも英語に足を引っ張られたという人。ほぼ間違いなく基礎がぐらぐらしています。英語体質を作るための音読パッケージや短文暗唱=瞬間英作文を行おうにも、文章の意味・構造理解が怪しい状態では効果が期待できません。最初は勉強のやり直しから始めましょう。「うわ~。一番やりたくないことだよ~」と頭を抱えているかもしれませんね。でも、いけ好かない奴だと思っていた人が誠実に付き合ってみると、案外良い人間だったということもよくあります。先入観を捨てて取り組んでみましょう。

まずは、本屋に足を運び、中学英文法の本を用意してください。その際何冊かの本を実際に手にとり比べてください。ポイントは次の三つです。

  1. 説明の仕方、文体が自分と相性が良くわかりやすいこと。
  2. 取り上げている文法事項に対して例文がふんだんについていること。
  3. 項目ごとに簡単な練習問題があること。このような本を使って文法を学習します。その際、例文は必ず声を出して読んで下さい。

ドリル練習を並行して行いましょう。本屋に行けば、穴埋め問題、並べ替え作文、簡単な和文英訳問題が載っている廉価なドリルがたくさんあります。苦手意識をもっていた英語もしっかりした目的意識をもって取り組むと随分と印象が変っているでしょう。中学生時代には難しいと感じられた説明も大人の頭で読むとなんなく理解できるものです。例文読みやドリルを、声を出して行うことで、基礎事項が単なる知識を越えて自分の血肉になっていくのを感じるはずです。カタカナ読みやローマ字読みなど発音に問題がある人は、発音の本を通読し発音記号も必ず覚えてください。

2.英語体質作りと勉強の2段構え

1. のステップで英語体質を作るトレーニングを行う準備は整いました。お疲れ様でした。中学テキストと文型集を使っての音読パッケージはケース1の1. のステップと同じです。ただ、英語が苦手だった人はこの段階ではストック不足が否めません。例えば目標のTOEIC600は、中学英語が100パーセント稼動すればクリアできるのですが、ものごと100パーセントを実現するのは困難です。中学英語の学習を終えた時点では語彙も1000語前後で実用的に英語を使うためには不足しています。

そこで、英語体質作りのトレーニングと並行して、レベルを一段上げて勉強を継続します。具体的には大学受験レベルの文法と読解を行います。ただ、実用のための学習ですから、重箱の隅をつつくような文法学習は必要ないし、読解も素直で平易な英文を対象にします。鷹揚に気楽に構えてください。文法は分厚な文法書は無視し、まず薄くて簡単な文法参考書を1、2度通読し文法の全体図を掴みます。中学英語の時と同じく説明文がわかりやすく例文と問題が多いものを選びます。それを終えてから文法の問題集をサイクル法でしあげます。読解本も文構造や語句の説明がわかりやすい物で精読トレーニングを行います。英文を理解した後は軽めの回数で構いませんから、文構造・意味を自分の中に沈めるように音読してください。時間があまり取れない人は、この大学受験レベルの勉強は3. のステップの時期にまたがっても構いません。

3.実践練習

さあ、ついに最終ステップです。会話能力をつけるトレーニングはケース1の2. のステップと全く同じです。3つのステップを経てあなたの英語力は一変しています。どうしようもないと思っていた英語も、系統的なステップを踏めば必要とするだけの力はつけることができます。長年悩まされていた英語を克服し、道具として使うところまで辿り付きました。敬意を表します。どうぞ自分を褒めてあげてください!


個人海外旅行を楽しめる英語力をつけたい

海外旅行が大好き。でも、英語がまったく話せないので、いつも団体ツアーや英語を話せる友人頼み。ペーパーバックや英字新聞を読みこなしたり、流暢に話す会話力は望まない。TOEICなどのテストにも関心なし。でも、一人でぶらりと海外旅行を楽しみ、ブロークンでもいいから現地の人とささやかな交流を持てる会話力をつけたいという人も多いでしょう。

1.基礎トレーニング

このような願望を持つ人が試すのは、旅行英会話フレーズ集の暗記や英会話スクールなどの旅行英会話コースです。しかし、基礎力がゼロだとまったく応用が利きません。せっかく丸暗記したフレーズが通じても、相手が応答してくると全く聴き取れず、丸暗記したフレーズ以外で応答することもできません。基礎トレーニングを行い、最低限の聴き取り能力と応用力をつければ、旅の楽しみは何倍にもなるはずです。

中学英語、特に中2レベルまでを中心に学習しましょう。中学3年で扱われる内容は関係代名詞、現在完了、分詞の形容詞的用法などぐっと高度になりますが、この際思い切って切り捨てます。こうやってターゲットを絞ることで学習の目処も立ちやすくなります。ただ、なんとなく知識を上滑り的に詰め込むのではなく、限られた文型でも応用が利くようにしっかりと自分の中に取り込みましょう。

具体的には、「突然英語が必要になった」のケース2の1. のステップに準じます。中学文法の本とドリルを使い、声を出して学習してください。学習が進むと、中学1年、そして中学2年の教科書の内容がかなりしっかりと理解できるようになったら、音読パッケージトレーニングを行います。この際、時間・エネルギーがないという人は、本格的学習をする人のような入念なサイクル回し、反復をしなくても構いません。ただ、音声素材を使い英語の音に慣れるようにして下さい。

2.旅行会話集などで実践練習

1. のステップで基礎ができたら、旅行会話集などで使いそうなフレーズ、表現をどんどん仕入れます。基礎学習をした後だと、文の構造もわからないままの暗記にならず効率的に覚えられるし、応用性もつきます。例えば、基礎が全く無いと、I would like a cup of coffee. と Would you like a cup of coffee? を全く別のセンテンスとして、カタカナで覚えなければなりませんが、多少の基礎があれば、前の文の主語を you に変えて疑問文にすると後の文になるということが理解できるので記憶の負担がかからず、また、would like の後に to不定詞をつなげる応用表現などもスムーズに覚えることができます。

この際、CDなど音声素材が選んで会話、フレーズを何回も聴きたいものです。本を見ながらで構いませんから軽いリピーティング、シャドーイングを行うとさらに効果的です。

また、この時期に英会話学校などの短期旅行英語コースを受講すると効果的で、実際の旅行前の良いリハーサルになります。