英語に特別の思い入れはなく、自分と英語は無縁のものと思っていたのに、自分以外の外からの要請で、ある日突然英語を身につけることを強いられることがあります。社会人の方なら、仕事で突然英語を使わざるを得なくなった、予想していなかった海外赴任の辞令が降りたなど、学生の方ならば、就職のために一定以上TOEICのスコアを取ることを決めた、などという場合です。
こうした場合、具体的な目標は、まずはTOEIC600レベルとなるでしょう。これは、英語を道具として使いことのできるスタート地点です。もちろん、それほどすらすらと話すことはできないでしょう。また、早口で話されると聴き取りに苦労するかもしれません。ただ、ゆっくりとした口調でも、センテンスで表現することができ始めます。言われたことがわからなければ、相手に聞き直したり、ゆっくり話すことを英語で要求できます。自分に取って英語は外国語であることを相手に理解させ、自分のペースでコミュニケーションが取れます。
このレベルに達すると「使って上達する」ことが可能となるので、英語を使う環境にいる人などは、この後テンポ良く力を伸ばすことができます。また、今現在要求される英語力がそれほど高くなく、自分でも深く英語を学習していく気がなくても、必要な時に力を伸ばしていける基礎体力がついています。この先に行く必要があってもなくても、良い状態で待機できるのです。
このレベルに達するためのプランを二つのケースに分けて紹介いたします。
英語が得意で大学受験時に偏差値が60を超え、安定した読解力と文法力を備えているというケース。このグループの人は、知識のストックは充分過ぎる位です。まずは立派な知識を使える体質作りに専念してください。くれぐれも「お勉強」を延々と続けないように。TOEICなどの目標スコアとの差を、問題集を黙ってカリカリ解くことで埋めようとしないで下さい。目標スコアは蜃気楼のようになかなか近づかないし、英語を使う能力は全くつきません。
中学2年3年レベルのテキストの音読パッケージでトレーニングを始めましょう。ピラミッド方式で100回前後の回数を行うことがお薦めですが、体質変化が早く、テキストを見ないリピーティングが浅いサイクルで簡単にできるようになってしまう方は回数を減らしてもいいでしょう。英語を話す能力をつけるために、並行して短文暗唱=瞬間英作文も行って下さい。中学英語レベルの文型集・例文集を使うといいでしょう。
私の指導経験では、早い人は、中学2、3年のテキスト一冊ずつの音読パッケージ、中学英語文型集を1セット上げただけで、TOEIC400前後から600越えを果たしてしまいます。この過程を終えて、まだ期した結果が得られない人は、焦らずに教材のおかわりをして下さい。音読パッケージは別の出版社の中学2、3年のテキストか同程度のテキストを使います。その場合も先行のテキストで初期回路ができつつありますから、早期からテキストを見ないリピーティングができるようになっているでしょう。それならば、サイクル数、反復回数はずっと減らして構いません。テキストの消化に要する期間は大幅に短縮されます。短文暗唱=瞬間英作文も淡々と中学レベルの文型集で行います。気分を変えて中学英語レベルの文型を軸に少しレベル高いバラエティーに富んだ表現を含んだ例文集と使うのもお薦めです。いずれにしても、大学受験レベルの知識がきちんと頭に入っている人がTOEIC600レベルに達するのは単に時間の問題です。駅までの道のりを歩けば、駅に到着するのと同じく確実なことです。
基本を軽んじず、1. のプロセスを踏むことで順調に英語体質ができつつあるでしょう。そろそろ実践練習の時期です。英語でコミュニケーションを取ることが要求される人はここで会話の練習に乗り出しましょう。実を言えば、基礎知識のしっかりしているこのグループの方は、いきなり会話練習をしても成果を上げることができます。ただ、上達の速度はかなり個人差があります。1. のプロセスをしっかり踏んでいれば、かなりスムーズに会話も上達します。また、基本文型を満遍なくをきちんとやることで、使用する文型や、言い回しが偏ってしまうことも防げます。
会話能力を効率的に向上させるためには、一週間に一度程度でなく、最低2回、できれば3回、1セッションの時間も多くの英会話スクールで見られるような40~50分程度ではなく、90~120分みっちり話したいものです。基礎力を実際の会話能力として開花させるためには、短期間に稠密な会話トレーニングをすべきです。これくらいのトレーニングを半年程度続けると、持っているストックに相応しい会話能力がつきます。費用もそれなりに掛かりますが、お金と労力を惜しみ細々としたトレーニングを行うと、思ったように効果をあげられず、かえって時間と費用も無駄にしてしまう恐れがあります。
1. 2. のステップが終了した時点で、目標とした英語力は手に入れているはずです。確実にTOEICなどの目標スコアをクリアしたい方は、①②の終了時点か、並行してテスト対策的な勉強をするといいでしょう。しかしそれはあくまでも補強的なものですから、学習の主軸にしないで下さい。健康な肉体はサプリメントだけで維持できず、しっかりとした食事が基本であるのと同じです。
基礎知識の豊富なこのグループの人は、目標のレベルに達しても大分余力を残しています。TOEICのスコアも、600点はおろか、600台後半から700台後半に達してしまう人もいます。そうすると、自分の埋もれていた英語力をさらに伸ばすことに面白みを感じてしまうかもしれません。また、目標にしていたレベルが到達してみるとほんの入り口であることを実感し、新たに挑戦心が湧いてくるかもしれません。これを機会に本格的なトレーニングを始めるのも一興ではないでしょうか?