英語トレーニング法
音読パッケージ
❶ 音読の効果
音読パッケージは、音読を他の2つの「音読系」トレーニングでサンドイッチして最大の効率と効果を図る方法です。そのトレーニング名がしめすように、軸になるのは音読です。そこで、音読の効果について確認しておきましょう。
音読は外国語習得のための伝統的な練習法で、トロイ文明を発掘したシュリーマンも青年時代、複数の外国語をマスターするために、さかんに音読を行ったことを自伝の中で克明に記しています。日本で、音読の重要性を一般の英語学習者に間に浸透させたのは、国弘正雄氏でしょう。国弘氏は「只管朗読」という名のもとに音読の効果を長い間説いてこられています。現在、日本を出ることなく独学で英語を習得した人たちによる、すぐれた英語学習のノウハウ本が数多く出版されていますが、それらを読むと英語をマスターした人たちが、まず例外なく、音読を重要なトレーニングとして位置付けていて、国弘氏の薫陶を受けていることが分ります。かくいう私も「只管朗読」から多大な恩恵を得た一人です。
音読の効用については、最近では脳の言語野であるウェルニッケ中枢を刺激するなど大脳生理学的な裏付けもあるようです。その分野の門外漢である私ですが、自分の体験、生徒の指導経験から、音読は英語力を上げる上で決定的な効果を持つと確言することができます。
では、なぜ音読は効果があるのでしょうか。私は英語上達の方法は端的に言って、「文構造・意味を把握している文を脳、音声器官を通じて出し入れすること」だと考えていますが、音読はこれを実に効率的にできる方法だからです。
では、音読で向上するのは英語能力のどういう面なのでしょうか?結論から言うと、あらゆる面に効果があります。英文を理解しながら繰り返し自分の口から発して行く作業は、英語を、英語の語順で直接・瞬間的に受け入れる体質を養成し、リスニング力も含め英語の基底能力を総合的に高めてくれます。
❷ 音読のパッケージとは
効果・効率抜群の音読パッケージ
非常に効果が高い音読ですが、同じ英文を何十回も繰り返し読み上げることを基本にするのでトレーニングに伴う単調さは否めません。そこで、音読を、他の2つの音読系トレーニング、すなわちリピーティングとシャドーイングで挟み込むことにより、トレーニングに変化をつけるのです。これは、音読だけを行う単調さを軽減してくれるだけでなく、違う刺激を与えることにより英語力を異なる角度から強化します。
「リピーティング」と「シャドーイング」は通訳養成学校でも行われる基礎的トレーニングです。この2つのトレーニング法はリスニング強化法として取り扱われることが多いので、私が「音読系トレーニング」と呼ぶことに疑問を持たれる方もいるかもしれません。しかし、2つのトレーニングは音読の重要な要素を備えています。構造、意味のわかっている英文を自分の口から発するということです。
音読が目から英文を入れ、理解して口から発するのに対し、「リピーティング」と「シャドーイング」は、耳を通じて英文を理解し、それからその英文を繰り返します。従って、英語を自分の口から発するというポイントを押さえながら、聴き取り能力を向上させます。音読パッケージを行えば、リスニングトレーニングのために独立して多くの時間を取る必要がありません。
初心者から中級の入り口(TOEIC600くらい)までは、ほぼ音読パッケージだけでいいでしょう。限られた時間のあれもこれもと考えて、時間と学習効果をいたずらに分散してしまう悩みは一挙に解決できます。かなりのレベル(TOEIC800を越えるあたり)に達するまで、限られた分量の教材を丹念に音読パッケージで消化することを中心にして、独立したリスニングはサプルメント程度にやる程度で結構です。
音読パッケージの核である音読は文構造、意味をしっかり把握しながら声を出して読み上げるというという単純明快な作業ですから、特に手順上の不明点はないと思います。それでは、音読パッケージのもう2つの要素、リピーティングとシャドーイングについて、よくご存知でない方のために解説しましょう。
リピーティング
リピーティングはリテンション(保持)とも呼ばれます。聴いて理解した英語を、そのまま繰り返します。トレーニングとしてリピーティングを行う際は、英文の間にポーズ(休止)が小刻みに入ったテープを使用します。まず、モデルの英語が1センテンス、あるいは1フレーズ流れ、それを聴き取り理解し、ポーズの間にそのまま繰り返します。下の図のように行うわけですね。
英語を聴いて理解した後、ポーズの間に繰り返す時、一言一句正確にリピートしてください。例えば、He was gilded all over with thin leaves of fine gold の後に he was covered all over with fine gold と言ってしまうと、だいたい同じことを言っていますが、正確なリピーティングではありません。
完全なリスニング能力とは、何を聴いても完璧なリピーティングができることです。われわれは母国語である日本語では完璧なリピーティングができます。もちろん長い文を一気に読み上げられて、その後に繰り返せと言われれば大意をまとめることになるでしょう。しかし、文を小刻みに切ってもらえれば、その後にリピーティングすることは、正常な国語力を持つ日本人にとってはたやすいことです。
ところがこれが英語になると途端に怪しくなります。こうしたフレーズごとのリピーティングができないリスニングは、実は英文を完璧に聴き取り理解しているわけではなく、話の流れや、聞き取れたフレーズや単語によって意味を推し量る推測聴きをしているのです。推測聴き自体は必ずしも排斥されるべきものではありません。外国語の聴き取り能力が母国語並になることは至難ですから、常に発展途上にある我々は話の難度や内容によっては推測聴きに頼らざるを得ません。しかし、トレーニングとして行う場合は正確なリピーティングを心がけてください。
シャドーイング
シャドーイングは、リピーティングとは異なり、ポーズのない英語の後を聴きながら少し遅れて同じ英文を繰り返すトレーニングです。オリジナルの英語に影(shadow)のように従いついていくことからこの名があります。発音・イントネーションを磨くとともに英語に対する反射神経を養ってくれますが、非常に集中力を要しますので、通訳養成学校でも一度に行うのは10分前後のようです。
シャドーイングを行う際は、自分の声でモデルの声がかき消されないようにヘッドホンを使う必要があります。注意点をいくつか挙げましょう。モデルの音声についていこうとして、単語の脱落や間違いが起こり、自分でそのことに気づかないということがよくあります。また、急ぐあまりイントネーションや区切りがめちゃくちゃになりがちです。また、なんども繰り返すと文を覚えてしまい、モデルの英文より先に文が終わったりすることもありますが、これでは音を聞いてから繰り返すという原則が守れていませんね。以上のような問題は、自分のシャドーイングを録音してみるとすぐに発見することができます。
❸ 音読のパッケージの実際の手順
サイクル法
同じテキストをなんどもぐるぐると繰り返すことを、「サイクルを回す」あるいは「サイクル法」といいます。英語を知識にとどめておかず、使える技術にするためには、一回理解しただけではなく何回も同じことを反復することが絶対に必要です。学校で何年も英語をやり、かつ成績もよい人が英語を使いこなせないのは、この繰り返しが致命的に欠如しているからです。英語を深く内在化することを目的とするトレーニングはすべて反復作業を伴います。この「音読パッケージ」の他、短文暗唱=瞬間英作文、ボキャビルなどがその代表格です。
しかし、その繰り返し方にもやり方があります。例えば、100の短文があり、これを100回読めといわれた場合どうやるでしょうか?ひとつひとつの文を100回ずつ順に読んでいきますか?これは実に単調で、エネルギーを要し、かつ実りの少ない方法です。
こうした場合サイクル法を使うのが最善の方法です。まずは全文を10回ずつよんで最初のサイクルを終えます。そして、第2サイクルに入ります。それが終われば、第3サイクル、第4サイクルと繰り返し10サイクル回して合計回数を100回にするのです。100回という回数を分割して繰り返すことにより、単調さは大幅に軽減できるし、なにより、文を覚えるためであれ、文から構文・文法的エッセンスを吸収するためであれ、その成果が全く違います。「結局100回やらなければならないんじゃ同じことだよ。」と落胆した方は数字の圧力に負けて食わず嫌いになっているのです。実際にトレーニングを始めてみれば、サイクル法がいかにスムーズで効率的であるか実感できるでしょう。
セッションの実際の手順
音読パッケージでは一つのテキストをサイクル法で仕上げていきます。最初のサイクルの、1セッションの手順を解説してみます。このセッションで扱う英文はオスカー・ワイルドの「幸福の王子」の冒頭の一節です。
THE HAPPY PRINCE
Oscar Wilde
High above the city,/on a tall column,/
stood the statue of the Happy Prince./
He was gilded all over /with thin leaves of fine gold,/
For eyes /he had two bright sapphires,/
And a large red ruby glowed on his sword hilt./
He was very much admired indeed./
He is as beautiful as a weathercock,/
remarked one of the Town Councillors/
who wished to gain a reputation/for having artistic tastes,/
only not quite so useful,/ he added, lest people should think him unpractical,/
which he really was not.
準 備
まず英文をしっかりと読み解いてください。もちろん翻訳などの訳を参考にしても構いませんが、日本語をみて「ああ、こんな意味か」といいかげんな読みで済まさないで下さい。文構造を完全に把握して、意味、使い方が曖昧な単語は辞書を引いて確認してください。音読では英文を100パーセント理解していることが前提になります。
❶テキストを見ながらのリピーティング―5回
テープの英文を聴き、ポーズ部分で同じ英文を繰り返していきます。この際、テープの英語の発音、イントネーションをできるだけそっくり真似てください。また、単なる音にならないように口から出す英語が頭の中で意味とイメージを結ぶように心がけます。
例えば、High above the city, on a tall column と言いながら、高い石柱の上から町を見下ろす視点をイメージし、stood the statue of the Happy Princeとリピートしながら王子の像が立っている影像を頭に浮かべてください。
これを5回繰り返します。
❷音読―15回
次にテープを使わず、テキストの音読を行います。既に5回のリピーティングで、音声的な残像として耳に残っているモデルの英語の発音、イントネーションを忠実に再生するつもりで音読します。このステップは音読パッケージの核の部分なので、15回の音読の間にしっかりと英文を自分の中に落とし込んでください。
序盤の数回は、まだ音声面に気を取られ、英文構造、意味の把握が十分でないかもしれません。回数を繰り返すうちに文構造、意味を徐々に自分のうちに落としこみ、15回の音読が終える時は完全に理解しながら発話実感を伴った読みが実現することを目指します。英文を暗記しようとする必要はありません。
文構造、意味がすんなり入ってこない文、フレーズには特に注意を払います。頭で理解できても音読のような肉体的作業でスムーズに入ってこない部分は自分の弱点です。音読ですんなり入らないものはリスニングしても聴き取れないものです。こうした個所はペースを落とし、食べ物をよく咀嚼するように読むことも行ってみるといいでしょう。こうした、「もつれ」をとくために必要にペースを落とすことはかまいませんが、15回の反復終了時には自然な音読ができるようにします。必要なフォローアップのために、反復回数を増やしてもいいでしょう。
❸テキストを見ないリピーティング―5回
再びリピーティングを行いますが、今度はテキストを見ません。テキストを見ながらの5回のリピーティングと15回の音読で英文に十分になじんだはずです。文構造・意味の理解、発話実感を伴って、ポーズ間に滑らかに英語を繰り返してください。音読パッケージでは、このテキスト無しのリピーティングが仕上げのステップでになります。テキスト無しでリピーティングを正確に行うためには、完全な聴き取りと英文の理解・消化が必要だからです。
ただ、初心者や英語の回路がほとんどできていない人には、第1サイクルの30回のセッションでテキスト無しのリピーティングを完成させるのは難しいでしょう。しばしば、立ち往生してしまったり、単語やフレーズの脱落や間違い、イントネーションの狂いなどが起こり、さらに自分ではそれに気づかないということもあります。次のような不正確なリピーティングです。
(モデル)High above the city, on a tall column,
(リピーティング)High above city tall column,
(モデル)stood the statue of the Happy Prince.
(リピーティング)statue Happy Prince stood.
(モデル)He was gilded all over with thin leaves of fine gold,
(リピーティング)He gilded all over thin leave fine gold,
このようなリピーティングを強引に続けていると、ブロークンイングリッシュを覚えてします恐れさえあります。テキスト無しのリピーティングが困難な時は、無理にやろうとせず、テキストを見ながらのリピーティングを行ってください。テキスト無しのリピーティングの完成は第2サイクル以降で実現すれば結構です。
❹シャドーイング-5回
締めくくりはシャドーイングです。ポーズ付きではないノーマルのテープを聴いて流れてくる英語の音声に、一瞬遅れてついていってください。イントネーションの崩れや、単語・フレーズの落ち、間違いに気をつけます。
テキスト無しのリピーティングと同じくシャドーイングも初心者には難しいですから、不安定なら、テキストを見ながらのシャドーイングか音読で代用します。
以上が音読パッケージの、第1サイクルの1セッション分の全手順です。一まとまりの英文をこの手順で終えたら次の文に進み、また次へと進行しテキストの最後の英文を終えれば第1サイクル完了です。
反復回数を守る
英語を内在化するためのトレーニングはみな一定の反復作業を伴います。音読はその中でも反復回数がもっとも多いトレーニングです。そのため音読そのものを敬遠したり、やるにしてもいいかげんな回数で切り上げてしまう人が多いようです。「英語を身につけるには、何度も音読するのが効果的である。」と聞いた時、多くの人はこの「何度も」を3,4回かせいぜい10回以内の回数と思い込むようです。残念ながら桁が違います。人間は物事を自分の都合のいいように解釈したがるものですが、本当に英語の力をつけたければ適性回数を行う必要があります。
私が示した30回という回数にげんなりした人もあるでしょうが、一定の長さを持つ英文を深く自分の中に取り込み、そこから英語上達に役立つエッセンスを吸い上げたいと望むならこれくらいの回数が絶対に必要です。これは有酸素運動の効果に例えることができます。ジョギングやウォーキングのような有酸素運動で、減量などの効果を得たい時、一定の時間運動を続けなければならないことが知られています。運動をはじめて15~20分くらいはグリコーゲンが燃やされていて、脂肪の燃焼が始まるのはその時間が過ぎてからなのだそうです。つまり、減量を成功させるためには運動を20分以上続けなければならないというわけです。音読の効果にも似たところがあるのです。
わたしはこの30回という回数をいいかげんに持ち出したわけではありません。私自身の指導経験から、音読効果を確保するためのミニマムな回数として割り出してきたのです。私自身が音読を本格的に開始したのは、国弘正雄氏の著書で「只管朗読」を知ってからです。氏の教え通り、私は中学生のテキストで音読にとりかかったのですが、回数についても本に書かれていた通り一冊500回を忠実に守りました。実際には100回×5のサイクル法で行いました。実際、この中学テキストの音読で私は本格的英語トレーニングの好スタートを切ることができました。
この経験から、わたしが英語を教え始めた時、生徒に私と同じ100回×5サイクルの音読回数を課したのですが、みな途中で根を上げてしまいこれを実際にこなせる人はほとんどいなかったのです。そこで私は100回を80回にしてみましたが、それでも生徒はついてこられません。さらに生徒の要請に従い70、60、50と回数を下げていきました。効果はまずまずでした。ところが回数を下げつづけ、20回になったとき効果ががくんと落ちてしまったのです。回数を30回に戻した時、効果は再び安定しました。それ以来私はミニマムの音読回数を30回に設定しています。
サイクルの回し方
最初のサイクルの音読パッケージを終えたら、第2サイクル、第3サイクル・・・とサイクルを回していくのですが、このサイクル回しには2つの方法があります。均等方式とピラミッド方式です。
均等方式は、30回なら30回を単純に繰り返していく方法です。私は中学の英語テキストを音読した際は、均等式を用い1サイクル100回の音読を5回繰り返したわけです。しかし、淡々と同じ回数の音読を何サイクルも繰り返すのは単調で非常な根気を要し、その負担から挫折もしやすいので、現在では均等式を用いるのは英語回路がまったく備わっていない初心者に対し、それも最初の数サイクルに限定して用いることが多くなってきています。
ピラミッド方式は、サイクルが深まり、テキストの内容の消化が進むに連れ、反復回数が少なくなる方式です。肉体的にも、心理的にも負担が少なく、トレーニング効果も良好なので現在ではごく初心者を除き、この方法で音読パッケージを行うことを薦めています。サイクル回しの実際の進め方をこのピラミッド方式を使って紹介しましょう。
▲ ピラミッド方式によるサイクル回しの実際
第2サイクルに入っても、1~4の手順は変わりません。ただ、各ステップのステップの反復回数が少なくなります。第1サイクルで30回という回数をこなしているので、さほど間を置かず回ってくる第2サイクルでは英文がずっと理解しやすく、口にも落ち着きやすくなってきているからです。第1サイクルと同じ手順の中でモデル回数と注意ポイントを示してみます。
●第2サイクル手順モデル
- テキストを見ながらのリピーティング―3回程度
第1サイクルで地ならしをしていますからこれくらいの回数でいいでしょう。モデルの英語の発音、イントネーションをもう一度確認しながら。 - 音読―10回前後
しっかりと文構造・意味を把握しながら、英文が自分の中に落ち着き、次のテキスト無しのリピーティングが安定してできる準備が整う回数を音読してください。 - テキストを見ないリピーティング―3~5回程度
第2サイクル以降のメインパートです。英文をしっかりと把握しながら、正確かつスムーズなリピーティングが連続して3回程度できたら仕上がりです。 - シャドーイング―3回程度
フォローアップとしてシャドーイングを行います。
このように反復回数は20回前後に減ります。第2サイクル以降ではテキスト無しのリピーティングをハイライトとして、スムーズで正確なリピーティングが反復回数の中に3回くらい含まれることを心がけます。言い換えれば、第2サイクル以降の各セッションのトレーニングは、連続3回程度の安定したリピーティングめがけて行うということです。
ただ、まだ英語の回路ができていない間は第2サイクルでもテキスト無しのリピーティングが難しいかもしれません。その際は気にせずテキストを見ながらのリピーティングを行ってください。英文の落ち着きや、テキスト無しのリピーティングに問題がある人は20回より回数を上げた方がいいかもしれませんが、むきになって何十回も反復する必要はありません。多くても30回以内でいいでしょう。リピーティングの完成は次のサイクル以降に譲ればいいのですから。
次に第3サイクルに移りますが、安定したリピーティングを3回完成することを目標にするのは同じです。反復回数はさらに少なくなるでしょう。スムーズなリピーティングが3回くらい含まれるなら、15回程度でいいでしょう。
●第3サイクル手順モデル
- テキストを見ながらのリピーティング―2~3回
- 音読―6~8回
- テキストを見ないリピーティング―3~5回
- シャドーイング―2~3回
テキストを見ないリピーティングも楽にできるようになってきたでしょう。続いて第4サイクルに進みます。反復回数はいっそう減り、10回程度です。この回数はその後のサイクルでももう減らしません。これより少ないとあまりに淡白になって定着度が落ちるからです。
●第4サイクル以降手順モデル
- テキストを見ながらのリピーティング―2、3回
- 音読―4、5回
- テキストを見ないリピーティング―3、4回
- シャドーイング―1、2回
この10回程度の反復で合計回数が100回程度になるまでサイクルを回します。
サイクル回し全体の一例は次のようになります。
30回+20回+15回+10回+10回+10回+・・・=100
1セッションあたりの反復回数は自分なりのアレンジで多少変動しても結構です。大切なことは次の3点です。
- 第1サイクル30回のミニマム回数を守る。
- サイクルを回して合計の100回前後反復する。
- テキストの音読パッケージが仕上がったとき、ポーズ付きのテープをかけたとき、テキストのどの英文のどの部分だろうと、完璧にリピーティングができる状態になっている。
このようにして音読パッケージを完成するとテキストの英文の相当部分を暗記してしまっているでしょう。しかし、それは結果として起こった暗記であり、副次的なことです。音読パッケージの目的は英文を表層的に記憶することでなく、英文を支える英語的エッセンス(構文・文法・語彙・レトリックなど)を吸収し自分の中に沈めていくことです。ですから、一時的に暗記した英文はしばらくすると忘れてしまいますが、一向に構いません。取り込んだ英語のエッセンスは確実にあなたの内部に堆積していくからです。
音読パッケージの手順は、テキストが変わっても基本的に同じ手順で行います。一つのテキストが終わると新しいテキストに変え、徐々に難しい英文に移って行きますが、トレーニングの内容は同じです。かなり高いレベルになるまで(TOEIC800を越えるあたり)まで上に挙げた例に従うことをお薦めします。
サイクル法からの卒業
反復回数の軽減
かなりの英語力(TOEIC800程度)がついてくると音読パッケージの完成速度が上がってきます。実際には、第3サイクルくらいになるとステップ1.のリピーティングで、すでにテキスト無しで繰り返せるようになってしまいます。また、多めの反復を行う目的は英語のエッセンスを刷り込むことですが、このレベルになると発音、構文・文法のあらかた、基礎語彙は身についています。従って、同じテキストを100回も繰り返す必要性が薄れてきますので、反復回数を軽減することになります。基礎から音読パッケージを続けてこのレベルに到達した人なら、テキストから十分な利益を得たことは自分で判断できるでしょう。適正な合計回数は70回かも、60回かもしれません。あるいはもっと少ないかもしれません。仕上がったと思ったときにサイクル回しを切り上げればいいでしょう。
ワンセッションだけの音読
さらに力が付き上級レベル(TOEIC850以上)に達すると、同じテキストを何度も回す必要がなくなってくるとともに、トレーニングそのものがさまざまなバリエーションに分岐していきます。この段階に至ればサイクル法による音読パッケージを卒業していいでしょう。ただ、自分の気に入った文を好きな回数ワンセッションだけ音読することを末永く続けていくといいでしょう。いわば、「一期一会の音読」です。格調の高い英語を使う英語の達人達の中にはこの習慣を持つ人が多いようです。
❹ どれくらいの分量を消化する?
あるレベルに達するのにどれくらいの分量の教材をこなせばいいのでしょうか?音読パッケージはかなりの反復を伴うトレーニングですから、教材の分量は限られます。私は自分の教室の生徒にはまず中学2年、3年のテキストで音読パッケージへの導入をします(場合によっては1年から)。それもすべてのプログラムではなく私が抜粋したものなので、テープでそれぞれ20分程度、合計40分程度ですね。もともと英語の知識はそこそこあるけれど、英語回路がないためTOEIC300台から400台だった生徒の中には、中学テキストの音読パッケージを終えただけで、一気に600に達する人もいます。遊んでいた知識が稼動し始めたわけです。
その後テキストのレベルを上げていくのですが、中級のテキストを2~3冊挙げた時点で、悪くともTOEIC700台後半、通常800台に入り、中にはいわゆるAランクの860点に達する人もいます。もちろん、他のトレーニングも並行して行っています。授業で精読を指導しますし、語彙制限のある本で多読もやってもらいます。ただ、私は基本がしっかりするまで機械的なボキャビル(語彙増強)には慎重ですし、仕事をしている生徒が多いので、英語回路を作るもう一つの重要トレーニングである短文暗唱の量がなかなか上がらない場合が多いのです。ですから英語力アップの相当部分は音読パッケージによるものといえます。
しかし、上に挙げたレベルに達するまでに音読パッケージのために使用する教材の量は必ずしも多くはありません。テープに直して120分から160分というところです。英語に上達するためには膨大な量の教材を使わなくてはならないと思い、何十巻ものテープ、何十枚ものCDをつまみ食いする人がいますが、実際に少数の教材を確実に消化するだけでかなりのレベルに到達するものです。TOEIC800程度というのは一般には上級といわれるレベルですが、実は基本的なことが確実に身についた時点で、いつのまにかこのレベルを超えているものです。確かに、膨大な量のさまざまな英語に触れる必要な時期がいずれ来るのですが、それはTOEICなどでは楽に900を越えて、教材を使ったいわゆる学習の時期が終わった段階です。
❺ どんな教材を使う?
流れのある文
音読パッケージで使う素材はばらばらの短文ではなく、物語や記事のような流れのあるものです。英語は勉強してきただけで、体の中に入れていくトレーニングがはじめての人は、内容が簡単に思えても中学校の教科書から始めることをお薦めします。それが終わってしまえば、自分にとって面白くレベルが合っていて、カセット、CD等の音声媒体がついていれば何でも結構です。教材の選択に迷う方は、別章の「お薦め教材集」を参考にして下さい。ただ、リピーティングに使うポーズの入ったものはほとんどありませんから、自分で作成します。これはダブルカセットデッキを使えば簡単に作れます。また、センテンス、フレーズ単位でリピートをすることの多い外国語の学習には、やはりカセットテープが使いやすいです。
音読パッケージに適したレベルは、自分の読みのレベルを100とすると、60~80くらいのものが標準的です。読んだ時にスムーズに理解できるものということです。会話形式のものも使えますが、短いセンテンスばかりになりがちですから、書き言葉を中心に使った方が安心です。書き言葉をしっかり取り込んでから話し言葉を覚えていくのは簡単ですが、逆は真ならずだからです。このあたりは母国語の習得とは事情が異なるところです。
1セッションにセクション、パラグラフごとに
1セッションの音読パッケージは、テキスト全体を最後まで読んでしまうのではなく、一まとまりのある文章ごとに反復します。この点、中学英語のテキストは、1プログラムがさらに無理のない長さのいくつかのセクションに分かれていますから、使いやすいですね。セクションごとに1セッションのトレーニングを行い、終われば次のセクションにと進んでいけます。
同じ学校テキストでも、高校用となると1セクションがかなり長くなり、2~3ページに及ぶものもあります。こうしたテキストや一般の小説や記事などを使う場合は、1パラグラフごとや、それが短すぎれば2パラグラフごとというように自分にとってやりやすい長さで区切って反復を行います。
❻ 上達の過程での適用
英語の回路を作り、英語を言語として直接受け入れる体質をつくる音読パッケージは、重要なトレーニングです。中学テキスト程度の英文が読めるなら、学習の開始と同時に導入します。以後かなり高いレベル(TOEIC800前後)になるまで、中心的なトレーニングです。ご紹介した方法により、確実に行ってください。TOEICで800くらいから、反復回数を軽めに抑える方法に徐々に切り替えていくのもいいでしょう。上級レベル(TOEIC850以上)に達して、学習時間に制限がある場合は、サイクル法による音読パッケージは毎日のトレーニングからははずしてもいいでしょう。その場合でも、ワンセッションだけの音読を折りに触れて行うことをお薦めします。