トレーニングの進め方

標準ケース

まず英語学習を志す人の大多数が該当すると思われるグループをモデルにしてみましょう。中学英語はだいたい頭に入っていて、しかし英語は使えない、TOEIC300~400くらいの人が、学習レベル終了ポイント(TOEIC900前後)に至るまでのコースです。

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中学英語で英語の初期回路を作る

まずは、中学レベルの英語です。しかし、今までの頭で理解しているだけ、中学英語のテキストが読んで意味がわかる、高校入試の問題が解けるといった程度ではありません。中学英語が完全に体に入っている状態を作ります。

中学の英語テキストの音読パッケージと中学英語文型の短文暗唱=瞬間英作文を、徹底的に行います。中学1年の教科書は内容があまりに単純になりがちなので、音読パッケージに使うのは2年、3年用でいいでしょう。中学1年で習う文型は非常に大切なものが多いのですが、これは単文暗唱=瞬間英作文で効果的に吸収できますので問題はありません。

短文暗唱=瞬間英作文では、文型別に練習するする第1ステージが終わったら、第2ステージに移り文型シャフルされた教材を使って文型への瞬時のアクセス・結合能力を養ってください。

この段階の後期では、音読パッケージ、単文暗唱=瞬間英作文のような肉体的・反射的トレーニングの一方で、より高いレベルの英語を頭で理解しておき次の段階に備えます。大学受験レベルの英文解釈教材やその他のリーディング教材を用いての精読とわかりやすい文法書などを用いて文法の概略を頭に入れておきます。

精読の素材としては大学受験用の英文解釈教材と一般のリーディング(あるいはリーディングを含む多目的)教材に二分されます。まず大学受験用英文解釈教材ですが、これは受験業界の異様な進化を反映し、正に至れり尽くせりです。扱われる英文に対しての細かな構文的・文法的解説、語彙リストがあるのはもちろん、訳文が直訳、意訳の両バージョンがあるものまでroyal treatment(王侯並みの待遇)を楽しめます。書店に行けば書棚のうなるほど並んでいますから、英文と解説・訳を照らし合わせ自分と相性の合うものを選べばいいでしょう。唯一の問題は、テープ・CDなどの音声媒体が付いているものが少なく、そのまま次の段階での音読パッケージの素材にできにくいということです。

一般の教材は音声媒体が付属しているものが多いのですが、反対に解説がそっけなく、訳もかなりこなれた意訳中心で、学習者にそれなりの下地が要求されます。英文は非常に魅力のあるものが多いのですが、完全に読み解くためには、辞書を丹念に引きながら訳・解説をしっかりと理解する必要があります。あるいは読解力のある人に指導を受けてもいいでしょう。

文法は次の段階で文法問題集を用いて完成にかかる前の準備です。薄めの文法解説書や学習書が適しています。間違っても、分厚な文法書を使わないで下さい。文法書はあくまでも辞典的に使うか、文法のあらかたをマスターした人が気の向いたときに紐解き、長い期間をかけて文法知識に肉付けをするのに使用するものです。基礎の出来ていない人が頭から一ページずつ暗記しようとしても、港を出て間もなく沈没する可能性が高いでしょう。この段階では易しく、おおづかみに文法の大要を説明してくれる本を選んでください。各項目の最後に簡単な練習問題があるものだと、知ったばかりの知識をチェックすることができ好都合です。

この段階の終了期にTOEICを受ければ、500台半ばから600台半ばくらいが出ます。

 

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英語回路強化トレーニングの継続と文法力・読解力の完成

音読パッケージの素材を中学テキストから、もっと高いレベルに上げます。前段階で精読していたものを使えばタイムロスも無く理想的です。単文暗唱=瞬間英作文は第2ステージを仕上げ、第3ステージへと移行していく時期です。第2ステージで獲得した苦も無く英文を作り出す回路を利用して、より高度な構文、実用的なフレーズを吸収していってください。

この段階のもう一つの重要なテーマは文法のマスターです。前段階で大まかに知った文法知識、文法問題集を効果的に用いて自在に使いこなせる技術に変換します。大学受験用問題集を2冊程度やれば十分でしょう。この段階の文法学習が本当に身になれば、その後文法を独立して勉強する必要はありません。 前段階の後半から始まった精読もこの段階でほぼ完成です。文の構造を正確に掴む能力を身につけるための精読トレーニングはそれほど多くの分量をこなす必要はありません。私の場合は大学受験期にたった1冊の英文解釈教材で精読の基礎は完成しました。

この段階が終わった時点のTOEICスコアは700台でしょう。

 

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トレーニング佳境 多読、ボキャビル導入

すでに英語回路は強固になっています。音読パッケージの際、読んでわかる英文なら、5、6回も口にすれば、テキストを見なくてもリピーティングが楽々と出来るようになっているでしょう。こうなると合計の反復回数も100回は必要ありません。サイクル数や、1セッションごとの反復回数を減らし、英文から栄養が吸収されたと感じればそこで打ち切ればいいでしょう。

また、この段階では、限られた量の英語を丹念に刷り込んで行く音読パッケージと並行して、多量の英語に触れていくリスニングに力を入れ始める時期です。英語回路が完成したことで音読パッケージに傾けるエネルギー、時間が減った分をリスニングに充てるといいでしょう。

単文暗唱=瞬間英作文は第3ステージの真っ只中です。焦点は、文型・構文の吸収ではなく、より豊かな表現の獲得へと移っています。

読みはいよいよ多読開始です。この段階では語彙が限られていますから、ネイティブ・スピーカー向けの一般の本、雑誌、新聞などは単語不足で跳ね返されるでしょう。使用単語に制限がある学習者向けの読み物でプレ多読を行います。精読のように完全に理解する必要は無く、6割程度の理解すればよしとして、とにかくスピードと量を重視、冊数、ページ数、語数を稼いでください。一定の量を読めば英文の流れに乗る体質ができています。

この段階でシステマティックなボキャビルも開始です。ここまでに4000~5000語の基礎語彙は身についています。ターゲットはそのレベルを超える単語群です。千語程度を1グループとして、段階的なボキャビルをするのがスタンダードな方法です。ボキャビルが進むにつれて、プレ多読から一般の多読へと移行していきます。語彙が8000語くらいになると易しい平易な文体で書かれストーリーの面白さで引っぱってくれるペーパーバックが読めるようになります。シドニー・シェルダン、ダニエル・スティールなどが読み易いでしょう。

この段階の終了時のTOEICスコアは700代後半から800台半ばくらいになっているでしょう。

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学習の最終期から実践への移行

音読パッケージはもうサイクル方式の必要はありません。また、必ずしもテープを使ったリピーティング、シャドーイングをパッケージにして行う必要も無いでしょう。つまり気に入った英文を気の向くままに音読すれば結構です。

この段階では、今までに包括的に行っていたトレーニングを、必要に応じて自由裁量で、且つアイテムごとに分割して行うようになります。例えてみれば、よく知らないジャンルの料理のレストランに入って、最初はお薦めセットを食べていますが、だんだん通になり、メニューから好みによって単品で注文するようなものです。英語を聴いた際の保持能力(リテンション)を強化しようと思えば、リピーティングに力を入れ、反射神経を鍛えたければシャドーイングを多めにやる。全般的に英語力の裾野を広げたければ末永く音読を続けるといったように、自分の必要性、その時々のテーマによってさまざまなトレーニングのあり様が可能です。

単文暗唱=瞬間英作文もルーティーン的に行う時期は卒業です。ネイティブ・スピーカーの、しかも表現の豊かな人には遠く及ばなくても、外国語として使いこなすには十分な状態になっているからです。実際の会話経験などを積むことに移行して、トレーニングとしての短文暗唱=瞬間英作文をまったくやらなくなっても構わないでしょう。しかし、同時通訳などの英語のプロを目指す人は、常に英語の表現力を研ぎ澄ませていなくてはなりませんから、これに類するトレーニングを継続しなくてはならないでしょう。ただ、この段階になると、単文暗唱=瞬間英作文トレーニングの目的は英語回路を強化することではなく、豊かで即妙の表現力の獲得です。対象もセンテンスからフレーズ、単語へと完全に移っています。

読みはいよいよ本格的な多読の幕開けです。ボキャビルに語彙が一万5千くらいになるとたいていのものが読めるようになります。プレ多読で英文の流れに乗る体質はできあがっています。貪欲に、そして享楽的に好きなものを好きなように読んでください。読むうちに語彙が増え、それがまた読みを楽にするという好循環を味わうでしょう。多読が伸ばす側面は読解力、語彙だけにとどまりません。読むことはある言語の使用能力を本質的に向上させます。母国語を同一にする日本人の間でも、読書を全くせず「若者語」しか使えない若年層と読書量豊かな人の間には隔絶と言っていい国語力の違いがあります。

この段階を終えるとTOEICのスコアは900前後になっています。しかし、あなたはそんなことにもはやなんの価値も見出さないでしょう。船は入り江を出たのです。今後の航路はあなた自身が決めてください。どこに行くのか、どのくらい遠くに行くのかは船長であるあなた自身の思いのままです。

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